(弐)

手の平が湿っているのは手を洗ったあと拭かなかったせいかそれとも汗のせいなのか。
黒崎は視線を落としてしまってもしかして俺の手を見ているのかも知れない。

「先生、聞こえてますか」
「聞こえてる」

「わかってます。この間の先生って俺の為にフリで芝居してくれてたんですよね」
芝居じゃねぇよ。
あんときの俺ときたらスケベ丸出しだったぜ。
どこをどう履き違えたらそんな好意的なものの見方が出来るんだ?
微温すぎる。

「先生みたいな大人が俺みたいなガキ相手しませんしね」
何言ってんだ黒崎。お前はガキじゃねぇ。
じゅーぶん俺の欲望の対象になって尚余りあるものがあるから自信もて。って何の自信だ?

「しかも俺のやってることって二股だし」
二股三股上等だコラァ。そういうのを奪うほうが俺は燃えるんだよ。

「でも考えたんです。一人しか好きになっちゃだめって言うのはそれは建前なんじゃないかって」
それと人のもんに横からちょっかい出すなってのな。

「先生は建前なんか適当にこなしてたらいいって」
そうだ建前なんかスマキにして尻無川に叩きこんでしまえ。
あっ尻無川ってのは大阪にあるんだ。スゲー名前だろ?

「だからせめて先生の前では建前やめて…」
「建前は大事だぞ」
は?いきなり誰だお前?俺か。何言ってんだ俺っ!
なんで今ここで建前の代理人みたいに建前を語ってんだァ?
建前にいくら貰ってんだよ?
あぁ?むしろ俺は先程建前殺害を示唆したはずなんだが。
「せんせ…」
「俺の前で本心見せてくれんのは嬉しいがそれでお前、
俺となんかあったら次お前彼氏と会うときしんどいのはお前だぞ」
「…」
「したいことしたいようにしてたら後悔もデカいんだよ。
だからそういうの最小限にするために建前ってもんがあるんだよ」
「…はい」
「失いたくないもんがあるなら建前は守れ」
「…」
うわっ今俺もっともらしいこと言ってるぜ。かっこいいじゃないか俺っ教師の鏡だよ。
って「俺」はどうなる?これって据え膳じゃんか。
いや黒崎は俺の事好きって言っただけで抱いてくれとかひとっことも言ってないけどよ。
どうすんの俺?続きはwebで!…って違うから。ちがうだろ。

「…すみませんでした」
んでもってコラ黒崎!そこで引き下がるなよっ。
もっと食い付いてくれよ。
そうしたら俺、落ちるから。
あぁ〜。落ちてぇっ。
もちょっとなんだよ。
自分で転げ落ちるってのはどうだ?
落ちるよ。1、2のサンっで落ちるよ。
覚悟いいか?いいんだな?
「…って『建前』はこんくらいにしとくか…」
よし。落ちそうだ俺。
さぁ落ちるから黒崎お前も巻き込まれてくれよ。
さっと避けるのナシだぞ。
俺だけ斜滑降はいやだぜハニーっ。

手は乾いていた。
俺は自分が座っていたソファには戻らず黒崎の座っている前に立った。
いきなりオレンジの柔らかい髪をクシャクシャとやったら黒崎は肩をすくめて下を向いてしまった。
ポツリと「せんせ…」と呟くのが聞こえる。
「微温ィんだよ。そういうこと言うときはな」
黒崎の前にしゃがむ。前のときと同じだ。
同じように黒崎の顔を覗きこむ。
「あのな。前も言ったけど俺は別に構わんよお前に彼氏がいようがいまいが」
「えっ?」
「ただな。それでももうちょっと言い方があるんだよ。
例えば彼氏と別れるからとか、彼氏より好きですとか、実際思ってなくても言ってくれや。
でないとやっぱ遠慮しちまうんだよその彼氏に。実際の彼氏じゃねぇぞ。お前の心ン中の彼氏にだ」
黒崎は目をまんまるにして俺を見ている。
「それからな…」
黒崎の唇に指を這わす。
とたんにさっきの黒崎の「救命措置」のときの舌の動きがフィードバックしてきた。
やばい。ガソリンだ。

「ガキだとか全然思ってねぇよ」
唇をこじあけて自分の唇と重ねる。
舌を入れるとすぐに返してきた。
この間とはえらい違いだ。黒崎の声が漏れる。
俺の肩に黒崎の手が乗っている。
指圧師かっつーくらいに滑らかに動いて俺の首に回される。
唇を離して顔を見ると目がトロンとしていた。
スタンバイ早っ。
「ヤバいな。これ以上ここでやんの」
いちおうこれは社交辞令みたいなもんだ。自分からキスしといてヤバいもくそもない。
ただなんとなくそういって逃げ道を確保しときたかった。
無論逃げるつもりはないが保険みたいなもんで。

黒崎は俺の首に回した手に頭をもたせかけて目を閉じて
「すみません。黙ってたんですけど」と言った。
「何?危険日?」聞いたあと愚問だと気がついた。
「まさか」と黒崎が目を開けて笑う。
そして俺の耳元で囁いた。
「鍵。俺、閉めちゃいました」
「え?」
最初からその積もりってやつか?
「黒さ…」

「一護です先生」

その言葉に逃げ道がどうかとか言うもんは見事になくなってしまった。
まったなしだ。バレてクビなら本望だこの野郎。
辞表でも反省文でも何でも書いてやらぁ。
俺は黒崎とこれこれこういうことしましたってことこまかに描写したるわ。
つか、俺の辞意問題は黒崎の中でどうなってるんだ?
解決してねぇだろ?もしかして黒崎は今さよならエッチの積もりなのかも知れねぇ。
この誤解は幸運なのか?幸運なのかな?幸運なんだろ。
だけど後でこの誤解はとかないとな。その時黒崎は怒るだろうか?
嘘つきと嫌われたらやっぱり今のはさよならエッチになるな…。

そういうことをぼんやり考えて、
なら悔いのないように全力出さないと、
いや俺が本気で全力だしたら黒崎壊れちゃうなぁとかなんとか思いながら
黒崎の両脇に手を差しこむ。
少し持ち上げて手前に寄せて座っているソファから降ろしてカーペットの上に座らせる。
テーブルの上にあるものを確認してから少し脇に押しやって場所を確保してから黒崎を横たえて被いかぶさった。

「…後悔すんなよ」
俺もな。後悔の残るよな事はすんなよ。最後かもしんねーから。
「する位なら来てませんし告ったりしません」
「上等だ…一護」
黒崎のシャツのボタンを片手で外しにかかる。
我ながら流麗だなといつも思う。留めるのは両手使ったって人の倍以上かかるが外すのは神業だ。
シャツをはだけると日焼けした肌が露になった。
左の突起を舌でなぶると黒崎は途端に息を荒くして俺の頭に腕を回してきた。
酸素が足りない水槽の魚のように口を開けて必死に呼吸しているように見える。
上半身をちょっと触っただけでこうだ。
このままやって行ったら最後失神か痙攣か起こすんじゃないかと心配になる。
反応がいいのは体質なのか「開発」の賜物なのか。
また頭の隅っこで赤い髪のアイツが穴兄弟穴兄弟とほざきながら
今度は高い山の中腹にある小屋からヤギと駆けてきた。
横にはちゃっかりペーターとおぼしき奴も居てペーターはよくみたら出席番号1番の浅田だか浅野だかいう奴だった。
今日はお前ら殺してる暇はない。そこで指くわえて見てろバーカ。
つかペーターのお前は関係ねぇだろ?
もしかしてお前も黒崎が?
だとしたら悪ィな。今は俺のもんだ。根拠の甚だしく弱い優越感が湧いてくる。
右手で黒崎の臍あたりを撫でまわす。
黒崎のズボンの中がぴくりぴくりと反応しているのが着衣の上からでも伺える。
クララが勃ったわ♪
頭の中で二匹の仔ヤギがメェメェダンスをしている。
なんでヤギ?
右手をあてがうと更に反応は早くなる。
黒崎は息を漏らしているが身体が生まれたての仔ヤギみたいにぶるぶる震えだしたので吐く声も震えていた。
それはいいとしてヤギから離れろ俺っ。
ベルトに手をかける。次にズボン。
「ケツ上げな」と声をかけると膝を立てて腰を浮かせてきた。
この姿勢だとズボンは膝までしか下ろせないが俺はお構いなしで
ズボンを膝に通したままの両足を一気に黒崎の顔の方に折り曲げた。
「えっ?」
順序が違うとでも思ってるんだろな。
ズボンに隠れて黒崎の顔は見えない。
返せば黒崎からも俺が見えない。
俺の次の行動が視覚からは読めないから不安だろう。
俺は唾で濡らした指で挨拶みたいに黒崎の後ろの穴の入り口を二、三ノックしてからまず一本滑りこませた。
「あ…」
黒崎の身体がびくりと硬くなる。
黒崎のものも揃えて高くあげられた両脚の間で硬度をあげる。
「力抜け」
「せんせ…恥ずかしい」
「恥ずかしがらせてんだよ」
部屋は大きな窓から夏の日射しを受けてそれが白い壁に反射して必要以上に明るい。
「俺お前の顔見えてねぇから思う存分恥ずかしがれ」
黒崎は今着衣のまま身体の中心だけ俺の前に晒してることになる。
全部晒してるよかかえって恥ずかしいはずだ。
顔は見えないが手がまだ腕を通したままのシャツの裾を握りしめている。
声が漏れる。
多分相当エロい顔してんだろうな。
履いたままの靴の底が俺の指の動きに合わせて上下する。
外したベルトの金具がカチャカチャと音を立てる。
黒崎の先端が濡れてきた。

ふいに視界の端に動くものがあった。
見れば窓の外の夏の空に飛行機だ。
高度があるし閉めきっているからそれはゆっくり無音で窓の形に切り取られた雲ひとつない空を横切っていく。
俺は黒崎から身体を離し窓に近づいてカーテンを閉めた。
あんな高いとこからこっちが見えるはずはないが隠しておきたかった。
誰からも。
今は俺だけのものだ。

黒崎の傍に戻り靴を脱がす。
そしてズボンと下着を脚から抜きとった。
焼けた肌に水着のあとが映える。
黒崎は閉めきったカーテンを見ていた。
いや、もしかしたらカーテンを透いて空高く飛ぶ機影を追いかけているのかも知れない。そんな遠い目をしていた。
「ぼやっとすんな」
自分のネクタイを外して黒崎の腹の上に放り投げる。「それ、持っとけ」
自分の服を脱いで初めて自分がこんなクーラーの効いた場所で汗ばんでいたことに気がついた。
テンパるなテンパるなと自分に言い聞かせて一呼吸し黒崎の脚に手をかけて押し広げた。
黒崎のものは先を濡らせたままだったからその滴を失敬する。
擦りつけて指を濡らし今度は挨拶なしで奥に刺しこんだ。
途端に黒崎は身体を反らした。
「力抜け」
なだめるように腹に手をおき硬い身体をほぐしてやる。
指は二本までは難なく入った。
黒崎はあえぎながら身体を揺すりだした。
腰をどう動かせば自分の知っている一番イイ所に当たるかわかってるらしく
同じ角度の同じ動きを繰り返してくる。
慣れた動きが妙に苛ついた。お前を今いじってんのは誰だよ。
二本揃えて入れた指を中で広げてやった。
予想外の刺激だったらしく「規則正しく」乱れていた呼吸は小さな悲鳴で中断した。
「『外』からの攻撃には慣れてるが中からは弱いってか?」
広げた指を中で歩かせる。
「痛かったら言えよ。ただしイイ場所もちゃんと言え。他に探すからな。一ヶ所くらいのスポットで満足してんじゃねぇよ」
俺は誰に張り合ってんだ?
指は黒崎の中で散策を始める。
締め付けてくるから正直散策なんて優雅なもんじゃない。
土を掘り進むモグラといったほうが近いが根気よく「お宝」を探す。
ふいに黒崎が身体を硬くした。
「痛いか?」
違うようだ。
「ちゃんと言えよ。ここがイイんだな?」
頷く。
新たに掘り当てたお宝は意外にも入り口近くにあった。
灯台もと暗しだ。そこを重点的に攻める。
黒崎は慣れない場所の感覚にはじめは堪えていたが次第に声を抑えきれずに洩らしはじめた。
身体の置き所がないと言わんばかりによがりだす。
黒崎のものはさっきのアイスみたいになっていた。
溶かしてやらないとはちきれそうだ。
「イクか?」返事がない。
見ればめちゃめちゃエロい顔をして「悶え」ている。
可愛いから近くで見てやろうと黒崎の上に乗ったら俺のネクタイを絡めた腕でしがみついてきた。
「イクか?」頷くかと思ったら首を横に振った。頑張るつもりらしい。
ならがっついた刺激を与えるのはこんくらいにしとこうか。
指を抜き今度は日焼けした肌に手を這わせる。
しっとりと吸い付いてくるのは黒崎の汗か俺の汗か。唇を重ねて舌を絡める。
「先生…」
声を出さずに唇の動きだけで俺をよぶ。
甘い囁きよりもよく沁みる。
「入れるぜ。いいな?」
いいな?と聞いたあと「嫌です」とか返されたら一体俺はどうすればいいんだ
「勃つ瀬がない」とはこういうことかとか一瞬考えたが黒崎はコクリと頷いた。

身体を起こして周りを探す。脱がせたズボンがあったからそれを丸めて黒崎の頭の下に敷いた。
それから目でテーブルの上のものをもう一度確認する。
「身体反らすなよ。反らすと余計痛いぞ」
「…そう…なんですか?」
「まぁな」
黒崎の両脚を割って抱えあげる。
その中心でコチコチのアイスがぴくついている。
手で包んで先端を親指でこねるとぴくぴくがビクンビクンになった。
黒崎は泣きそうな顔になった。
同じ眉を寄せてるしかめっ面なのにどうしてこう違うんだ。
反対の手で中心を再びこじあける。みちりと湿った音がした。
息を止めてゆっくり俺自身を突き入れる。

「…あっ」

さっき言ったのに黒崎はやっぱり身体を反らす。
反射だろうから仕方がないがもちょっと頑張る所、先生は見たかったな。
お前は頑張り屋さんだし頑張れば出来る子なんだから。
…といっても仕方がないので腹に手を置いて反った身体を抑える。
痛いから反るのか反るから痛いのか実際そこんとこはわからない。
だって俺経験ないもん。こういう時に役立つから一丁経験済ませて置こうかとか考えたが誰相手に?
と思うと色色浮かぶ顔もあったが寒気がして結果的に全員却下となった。
黒崎の反り返る身体とは反対にカーペットの上で痛みに踏ん張る右手に
俺が持っとけと言ったネクタイが握りしめられてるのが目に入っていじらしい。

「力入れるから反るんだ。力抜け」
「だって…」意思とは関係ないと言いたいのだろう。
「お前が反ってると俺も痛いんだよ」
まじ、痛い。
そもそも女のそことは違う。
貫通済みだろうが開発済みだろうがなんだろうがもともと出口専用なものを入口にするんだ。
こなれりゃまだそれなりに使い勝手もよろしくなるが黒崎くらいに若いと筋肉の戻りが早い。
ねじこむ方だって余程粗末なお持ち物でない限り多少は痛い。
だから慣らすんだがこんだけ海老反りされると俺の今までの努力も意味がない。
まぁその努力が楽しいんだけどな。
「す…っすみませんっ」
謝らなくていいからっ。
喋ると力入るから。
抱えている両脚を下ろし黒崎の上半身を抱き起こす。
黒崎は顎も息も上がっている。
頭を支えてやって起こし声をかける。
「黒…。一護、目あけろ」
うっすらと目が開く。
目尻に涙が溜まっている。
泣いてるし!
哭かすつもりが泣いてるし。
俺のせい?やっぱり俺のせいなのか?
「すみません」
謝るのは言いつけを守れなかったせいか。
オリコーサンの黒崎らしい。
「仕方ねぇよ。気にすんな」
目尻の雫を指で拭ってやる。
そして抱えたままカーペットに降ろす。
このまま動かそうかと思ったが一旦抜いた。

さっきの「騒動」でほったらかしにされていた黒崎のものは少しばかりしょんぼりしていた。
両手で包みこんでしごきだすと黒崎のテンションとは関係なくまた硬度をあげて嬉し涙をにじませだす。
黒崎も凹んでばかりは居られなくなって身体をよじらせる。
「せんせ…そんな、早くしないで…」
「イクか?」
「まだ…」
この強情っぱり。
「イッとけ」
イッたら脱力して無理な力がかからなくなるだろうと言う理屈だ。
根拠はないがそんな気がした。

黒崎はネクタイを掴んだままの手を口に当てて歯をガチガチやって堪えている。
しごく度に黒崎は電気に打たれたように身体を痙攣させる。
手で遮って遠慮がちだった声も次第に大きくなっていく。
「イクか?」
「…」
本当に強情だ。
身体はこんなに素直なのに。
「聞こえねえっ」
「…く」
「イクな?」
聞かなくてもわかってるんだが。
「いっ…」
黒崎は食いしばるように目を瞑ってびくんびくんと身体を波打たせる。
素早くテーブルの上にあるティッシュの箱から二三枚ひったくって被せるやいなやじとりと重く濡れた。

黒崎の動きが止まる。
肩で息をしている。
「先生…」
虚ろな目を俺に向けてるのを見て悪いことしたなと思った。
しかし謝るのもなんだか変だ。
かける言葉が見つからないからその代わりに身体を重ねて抱きしめると
首に腕を回してきたからなんだか赦された気がした。
「すまねぇ」と言うと「先生も」と返してきた。

『先生も』なんだろう?
お互い様です早くイッてすみませんてことか先生もイッてと言うことか、
多分後者だと思うから「あぁ」と答えて黒崎を改めて見ると
さっきの飛行機を追いかけた時の遠い目を窓のほうに向けていたので俺も窓が気になった。
窓はカーテンを閉めたから窓もそしてその形に切り取られた空もここからは見えない。
だけど空高く飛ぶ鉄の鳥はお前には見えてるんだろうか?
こっち向けよ。
あの飛行機よりも高く飛ばしてやるから。

黒崎の身体に指を這わす。
焼けた肌とそうでないところの肌の境目がなまめかしい。
唇を割って指を滑りこませたら舌の歓待雨アラレだ。
「救命措置」のときの舌の動きを思い出す。

欲張ってもう一本入れたらめちゃめちゃエロい眺めになった。
さぁいよいよだぜ。なんか長かったなぁとちらっと壁の時計を見たら
思ったほど時間がたってないのでちょっと気抜けした。
同じことしてても夜のほうが長くなっちゃうのはなぜだろう?
やっぱりあとは寝るだけだからゆったりおおらかになるのかも知れない。
黒崎と温泉とか泊まりで行きてぇなぁ。誘ってみよっか。
あぁ俺休みないんだった。
辞表書かなければの話だが。
ちょっとまて、俺休みほんとにどうしよう?
取るのはいいが休んでる間に東仙が勝手に俺の辞表書いて勝手に受理してたらとか思うと気が気でないからおちおち休めない。

ふいに指に硬い感触がするので見たら黒崎は俺の指に歯を立てていた。
長いこと俺の指をくわえているからしんどくなったのかも知れない。
抜いたらふやけてじーさんみたいな指になっていた。
誰の指だ?
こんなじーさんな指黒崎の中に入れたら申し訳ないよな気もしたが
実際のじーさんフィンガーとは違い湿り気はばっちりなのでそのまま黒崎の膝を立たせて奥に滑りこませた。

本日四回目にもなるとさすがに抵抗は少ない。
もしかしてイッたせいかも知れない。
そして代わりにねっとりと吸い付いてくる。
黒崎もロケットスタートかって言うようなダッシュでいきなりよがりだす。

今日初めて抱いてるという気がしない。
ずっと前からこうだったみたいな錯覚がした。

「入れるぜ」俺自身もさっき一口だけかじってお預けをくらったもんだから普段よりも凶暴…な気がする。
つか、これ、入れて暫く放置したら俺のもさっきの指みたいにじーさん的になったりするのかなとか考えてしまった。
今までの経験を鑑みるとそんなことはないはずで
確かにイッてから放置すると中でふにゃふにゃにはなるがシワシワにはならない。
だがそこから思考が横道に逸れ出して龍宮に行った浦島とかいう若造はじーさんになってしまったが
あれは海水でふやけてじーさん状になっただけで実はしばらくしたらもとに戻るんじゃないかとか
自分でも訳の分からない思考のラビリンスに迷いこみそうになった。
どうもやはりテンパってるのか俺?

黒崎のそこはもっとくれとねだっているようにひくついている。
指を抜いてゆっくり俺の先端を押し込むと軽い抵抗を見せたあとぴたりと俺の動きに従いだした。
「あっ…イイ…」
今度は身体を反らせずに俺の下で眠る仔猫のように丸くなっている。
よくできました。ハナマルだ。
ご褒美に黒崎がもとから知っている奥のイイ所を突いてやると腰を僅かに使いだした。
「イイか?」
「…うん」

「はい」じゃなくて「うん」だ。
誰と喋ってんだ?
不思議と苛つきはしなかった。
ただしだからって見過ごしてやるほど出来た大人じゃないからな。
「そうか」と言って一度スパッと抜いてやった。
「えっ」目を瞑って快感を味わっていた黒崎は目を開けて突然のお預けに切なそうな視線を俺に向ける。
「せんせ…?」
目を開けたら誰かさんじゃなくて俺だったからびっくりして慌ててるようにも見えた。
それはちょっと考えすぎか。
しかしそうだったとしても黒崎の今のリアクションは可愛い。カワイイんだよ。
笑顔を作って手を伸ばしてオレンジの髪をクシャクシャとやってから黒崎の両脚を抱えなおす。
さっき掘り出した部分を確認してからそこに当たるような角度でもう一度ねじこませた。
「んっ…」黒崎は今度は薄目であえぎだした。
意識的にそこを擦るように突いてやると耐えられないと言う風に身体をよじりだす。
黒崎の中もご機嫌なもてなしだし。
あ〜やっぱ若い身体はいいなぁーって俺はおっさんか。
黒崎がふいにネクタイを絡ませた手を伸ばしてくる。
その手をカーペットに押し付けて指を絡めて握りかえしてやると「先生」と囁きが聞こえる。
「やめないでください」

どっちの「やめる」だよ?
さっき途中で抜いたからそれのことか、それとも俺の辞表のことか。
どっちもやめるつもりはないから「やめねぇって」と言うと握ってないほうの手が俺の首に回ってきた。
妙に澱みない動きに将来が末恐ろしくなるような媚態だなと思った。
天性なのか。それとも、
とたんにさっきはスルーできた苛だちがまた湧いてきた。
人は欲深い。他に男が居ていいとか今限りで構わないなんて…嘘だ。
俺だけを見ろ、俺だけに晒せときりなく欲望は湧いてくる。

このあと、あのドアから出ていくお前を俺はいつものようにヘラヘラ笑って見送れるのか?
他のやつの腕の中に帰ってくお前をよ。

最高に甘いはずの時の中で俺の苛だちは最高潮になってきた。
回された腕をふりほどく。
握った手はそのままだ。
乱暴に腰を引き寄せる。突然の変調にスタンバイの追いつかない黒崎の中心を攻めあげる。
「せんせっ」

先生じゃねぇよ。俺は、

俺が見つけた俺しか知らない黒崎のイイ所を追い詰める。
黒崎はそれに俺にしか見せたことのない(はずの)よがりかたで応える。
聞いてはいけないことを問いただしたくなる。
言わせてはいけないことを言わせたくなる。

かろうじて違う言葉に摩り替える。
「イイか?」
「…」
荒い息だけが返ってくる。
「イイのか」しつこいぞ俺。
だが黒崎の声が聴きたかった。
それが望む言葉を奏でなくても。
それが聴けたらあの高い空に放してやるよ。

「聞こえねぇよ。イイのか?」
「…」
「くろさきっ」
「…はい…せんせい」
かすれた声だが黒崎の声が聴こえた。

もうこれ以上は無理ってくらいに折り曲げて窮屈な姿勢をさせているにも関わらず黒崎は腰を返してくる。
右手には俺のネクタイ、左手は俺の腕を掴んではなさない。
黒崎の頬を濡らしてるのは黒崎の涙だろうか俺の汗だろうか。
「出すぜ、いいな」
黒崎はあえいでいるが答えがない。
あぁ、高いとこ行っちゃってここには居ないんだな。
抜け殻相手に俺は何必死こいてんだと滑稽感が湧いたがそれも一瞬で
俺は黒崎の中で出したと言うよりも吸いつくされたみたいな感じで果てた。



はっきり言おう。
疲れた。
けだるい充実感なんかじゃねぇ。
疲れたんだ。
黒崎の両膝を抱えたまま俺は首を落とし長い息を吐いていた。
前髪がばさばさと視界にかかる。
とんでもなくグシャってるんだろうなと思ったがかきあげる余裕がない。
ガラにもない嫉妬心のせいで12年と2ヶ月と6日分くらい頭脳労働をしたような気がする。
数ある感情の中で嫉妬というやつが一番人を錆びさせると俺は思う。
俺がカミソリだとしたら錆びは禁物なんだ。
だから俺は嫉妬なんかしない。
しないはずだ。
しちゃダメなん…

「先生」
ふいに頭上から声が降ってきて顔を上げると黒崎が心配そうな目を俺に向けていた。
「俺…よくなかったですか?」
ガキがなんの心配してんだ?
ガキの心配することじゃねぇ。くそったれ。
まったくお前は…
ガキのくせに


…まったくお前は
ガキのくせに最高だよ。

だから、

首を振って笑ってやる。
黒崎は照れ臭そうに笑って俺に手を伸ばしてきた。
抱えた脚を降ろしその手に応える。

さっきほかに男がいても構わないと言ったあれは確かにあの時は本心だった。

だが今、それは建前でしかない。

柔らかい髪が鼻先をくすぐる。





抱くんじゃなかったと思った。



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