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黒蝶の夢 【 中 編 】 |
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「お帰り、一護」
紅い髪の男―恋次は少年の名を呼ぶと、
どこかほっとした笑みを浮かべた。
「ただいま、恋次」
橙色の髪の少年― 一護はそんな恋次に少し
眉を顰めたが、ゆっくり窓辺に近づくと軽く頭を下げ、
大丈夫と言う風に微笑んだ。
片手で一護を抱き寄せた恋次は、近くに置いていた
黒無地の長衣を引き寄せるとその躯を包んだ。
冷えている躯を暖めるように両腕で抱きしめ直すと、
不意に一護を膝の上に引き上げた。
「うわっ、恋次」
咄嗟の事に声を上げてしがみつく一護を、
恋次は余裕で抱きかかえる。 反射的に窓の下を覗いてしまった一護は、闇の深さに
恋次に更にしがみついた。
「危ないだろ!」
「あ?俺が落とすような事するかよ」
まぁ落ちても大丈夫だ、とにやりと笑う恋次を、ぐっと眉間に
皺を寄せて一護は睨みつけた。
しかし恋次はそんな表情を気にする風もなく、一護の衣に
手をかける。
「ちょっ、恋次」
「おとなしくしてろって」
羽織ってるだけの長衣の袷にすっと恋次は指を滑らせると、
一点で指を止めた。
一護の胸、ちょうど心臓の辺りを軽く指でなぞる。
「ん・・・」
胸をなぞる恋次の指の動きに、微かに一護の背が震えた。
「力抜け」
一護の躯を抱え直しながら、恋次はその場所に唇を寄せた。
微かに開いた唇から、熱い吐息が漏れる。
「れんじ・・・」
胸に掛かる吐息と唇に一護は思わず身を捩ろうとしたが、
しっかりと背に回された恋次の腕がそれを許さなかった。
「教えたろ?力抜いて、俺に合わせろ」
「う・・・ん」
胸元に触れる熱さに気恥ずかしさが先に立ちながらも、
一護はゆっくりと躯の力を抜いた。
恋次の息遣いに、自分のそれを合わせる。
さらりと恋次の前髪が胸を擽り、力強く規則的な呼吸が
染み込んで来る。
「そうだ、そのまま拒むなよ・・・」
そう言って恋次は、ぴたりと唇を押し当てた。
「あ・・・」
恋次の触れた場所から、ゆっくりと温かさが滲んで行く。
恋次の頭に手を回し、与えてくれる“力”の温かさと力強さに
一護はゆったりと瞳を閉じた。
胸から手先、足の先へと、隅々まで恋次の温もりが一護を
満たして行く。
じんわりと奥から拡がる“力”に、一護は素直に己をゆだねた。
酩酊にも似た感覚に、ほっ、と唇から声にならない音が零れる。
恋次は眼を細めてそんな一護を感じながら、力の抜けきった躯を
更に強く抱きしめた。
重なる二人の呼吸が、月明かりだけの部屋に静かに溶けて行った。
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