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記憶のネジ。
掠れた記憶。
ススキたちが指差す先に魔法使いのように帽子を被り杖を携えてマントを翻してその人は居た。 「こんにちは」 振り返った帽子の下の視線は優しそうだったけど 「おじ…おにいさん誰?」 こんなところにぼおっと立ってるなんて怪しい人だ。 なんでこんなところに居るんだろう。 するとその人はそんな警戒と好奇をくすぐるように 「アタシの考えてることを当てたら教えてあげましょう」 と笑う。 男なのにアタシだなんておかしな人だ。 会っていきなり考えを当てろだなんて不思議な人だ。 興味が警戒に勝る。 でも魔法使いじゃないからその人の考えてることなんて分からない。 だけどこの間読んだ本の内容、ライオンが出てた話を思い出してこう言ってみる。 「おにいさんは僕に名前教えないって考えてる?」 それを聞いたその人は「ほお? やりますね」と笑った。 「アタシの敗けっスね」 その人は帽子を取る。 優し“そう”な視線ではなく優しい瞳。 「アタシの名前は… そこからの記憶がない。 「だから夢だと思ってだんだ」 その後また会うまでは。 「あれは驚きましたよ。あの時あのあたり結界張ってたんスよ。それをやすやすと越えてくるんスから」 なんで結界なんか張ってたのか、今ならわかる。 そして、その中に死神でもない子どもが入ることのヤバさも。 「だから早々にお帰り願おうと空気読みましょうねのなぞなぞ出したんスけどね。返り討ちっスよ」 「えっ?あれ、そういう意味だったんだ…」 つまり、闖入の上に空気も読めない大迷惑な奴だったんだ俺は。 「しかしあの答えはうまかったスね。それでこんな聡い子なら訳をお話してお帰り下さったほうが正解だと思いまして」 「こう言う場合、逆に子どもさんのほうが信じてくれるし秘密も守ってくれます」
あの答えだって、たまたまそういう本を読んでたから出来ただけで、 自力で考えろとなったらきっと無理だったに違いない。 違う答えをしたらどうなってただろうとチラと思う。
しかし“聡い子”と褒められた以上、それ以外を考えるのが億劫だ。 「しかも最初『おじさん』て言いかけて気を遣って『おにいさん』に言い直してくれてましたし」 気付かれてたか… まあ、確かにそれは気を遣ったつもりだった。 あの頃って年上の男性はひとくくりに『おじさん』しかなかったんだけど、 なんか違うと感じて『おにいさん』に言い換えたんだ。そこはすごく覚えている。かなり鮮明に。 なのに肝心のことが掠れている。 「あの時って浦原さん名乗ったっけ?」 「名乗りましたとも!やだなぁ、覚えてないんスか?渾身のギャグだったんスよぉ!」 え? 渾身のギャグて? 「ひどいな。覚えといて下さいよ Rufus Chamberlain(ルーファス
チェンバレン)て名乗ったじゃないスか」
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るーふぁ?ちぇんば?
誰だよ。てかギャグなのかそれ。
いや、ギャグなのかそうでないかとか言う前に
全然面白い要素がない。
滑ってるとかでもなく、なんか色々次元が違う。
だから、あの後の記憶がないのかも知れない。
その、スバリ言うと馬鹿すぎて。
間違い探しに疲れたような気分。
そんな俺を前に目眩のような事ばかりを言葉にして笑う魔法使い。
目の奥で記憶のネジがきりきりと回る気がした。 今日のこともまた掠れてしまうかも知れない。
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文中の浦原さん渾身のギャグ? Rufus Chamberlain(ルーファス チェンバレン) は日本名を英語名に変換してくれるサイト 「The Very British Name Generator |」 http://rumandmonkey.com/widgets/toys/namegen/10/#.Vlvu9WZKOJJ にて「kisuke urahara」でやったものです。 |