Puss            【puss】ネコ(→特に呼び掛け); 小娘.

※このSSはエロはたいして濃ゆくはないですが、ほかの部分でちょっと生々しいかもしれません。
シモネタが苦手な方はご注意くださいませm(_ _)m














学生のときの下宿先ン家に猫が居ついていた。半ノラでたまにしか姿を見せないが、
来ると愛嬌のある仕草で人の回りをじゃれまわってかわいらしいもんだった。
最初は来たときだけ相手にしていたが、
いつしかソイツの来るのが楽しみになって部屋の窓を少し開けておいたり缶詰なんか買い置きしてたりしたもんだ。
しばらく来ないと心配になり顔(実体)を見て安心してまた次に来るのを楽しみに待つ。
そうやってソイツは俺の部屋にいつも「存在(い)」た。
姿はなくとも。




そうして今はこの「猫」が俺の部屋に「存在(い)」る。
 (いや、「存在(い)てくれて」るんだな)

今日の猫は…いや、黒崎は、
今日の黒崎はばっちり「実体」つきだ。
メールや電話、俺の妄想を介することなく
抱けばしなり、開けば恥じらう生身の実体(肉体)つきで俺の部屋俺の腕の中に存在る。

しかし久しぶりの実体なんですっかり張り切ってしまったじゃねぇか。
テストも近いし早めに帰してやろうとかいう「教師」な理性はすっかりけしとび
(いや、こゆことしてる時点で「教師」じゃないし)
ベッドに撃沈してる黒崎に湯沸かしポット買ったからコーヒーでも飲むかと声かけたついでに見た時計の短い針は、助さん(長い針)と格さん(秒の針)をしたがえて
「このような時間に愛しき教え子を外にほうりだすなどとはまことに人の道、教師の道にはずれたる所業。よって一晩の宿を申しつける」
とご沙汰をくだすった。
まぁしゃーねーなぁとひれ伏して仰せつかり、
申し訳なさげな顔を繕ってから黒崎に懺悔したらたったニコリのリアクションひとつで俺は赦されてしまった。
しめしめ。


泊めるとなるととたんに時の流れはゆとりあるものになる。
コーヒー飲んだらまたもいっかい…いやいや風呂入るが先だろとかいろいろ考えつつ黒崎に砂糖とクリープの量を訊く。
「砂糖多め」と答えたその声の前に僅かに間があったような気がして少し違和感を覚える。
「どした?」
覗きこんだ表情はさっきのニコリとはうって変わってしおれてるように見えた。
やっぱり帰すべきか…。
とたんにまた時がせわしなく動き始めた気がした。
「なんか予定あんのか?俺に気ィ遣わなくていいぞ」
言ったものの、すでに俺は次会えるのはいつになるだろうとか、
それまで実体の消えた「黒崎」とこの部屋で過ごすおそろしくセンチな時間の長さを想像してもげそうになっていた。

「いえ…別に」
といいつつも目が泳いでる。心ここにないだろ黒崎…

アイツか…?

今ここに実体はあるのになんだか黒崎の存在が遠い。

「なにもないです。あ、俺コーヒー淹れます」
起きようとして体をよじるのが俺から目をそらすためにやってる風にしかとれない。

あのよ…バレバレだぞなんか隠してんの。
「飲んだら…」帰るのかよと続けようとしたとたん黒崎のほうから



と音がした。
俺の声とかぶったがそれはいやにかわいい音で俺の声の波長とは明らかに違う。

帰るのかよと続けるつもりだった口は『帰る』の『か』のまま止まったから俺はあんぐり口を開けた状態に黒崎には見えてるはずだ。
その黒崎は音がするやいなや、
その音がかなり「通る」ものとわかるやいなや、顔を真っ赤にして泣きそうな顔になった。

これは…いわゆるかわいい下の口のラッパ…というやつ…だ。
さっきまで「俺」がさんざ中をこねくり回してたんだ。
そりゃ「あまぎごえ」も出るだろう。そういやそんな歌あったな。
♪あなたと〜ぉ越えたぁい〜あまぎィ〜ごぉぉぉえぇぇぇ〜♪
実に、実にエロい歌だ。

演歌に浸ってる場合じゃない。
さて、これは聞かなかったふりをしてスルーしてやるべきか、
生理現象だ気にするなと正論で慰めるべきか。
スルーするには俺は固まりすぎていたし正論かますにも取ってつけたみたいだ。
第一正論なんてものはただの間違ってはいないだけの知識でその実慰めにもくそにもならんもんが多い。
デリカシーインポと呼ばれたくないならまず正論の理論武装はやめたがいい。
そうこう考えてる間にも俺と黒崎の間にはまださっきの
の余韻がゆらめいている。
黒崎は今までに見たことないくらいにゆでたこになってしまってて、もうこれはスルーにも正論にも出る幕はない。

しかし…

おかしい…

黒崎が、



だぜ?

あの黒崎が



だめだ…笑いそうだ。
      

いや、恥ずかしがってるし笑っちゃかわいそうだろ。ここはなんとか他の話題を出してみよう。
タイミング悪かったから完全スルーは成し遂げられなかったけどこのまま違う話題に持ち込んでなかったことにはできるだろう。
さあ、何か話題を出してくるんだ俺…
違う話題違う話題。

だめださっきのが耳について離れない。
笑いこらえすぎて腹筋がひくひくしやがる。
ここでプロテイン飲んだら俺すげぇ腹筋割れるんじゃね?
プロテインか。その路線の話題出すか。
ぷろていん…

ぷろて…

ぷろ…

ぷ…

ぷ…ぷ…



だめだ余計におかしくなってきた。
    

「ごめん…な…さい」
と ゆで黒崎がようやく口を開いたのが合図みたいに俺はぶはっと吹き出してしまった。
がはがはこみ上げる笑いに任せて黒崎の頭やら顔やらぐりぐりなでまわして最後にはぎゅうぎゅう抱きしめて
ようやくこみ上げる笑いの隙をついてハアと息が継げた。

抱きしめた黒崎は最初かなりガチガチになってたが途中から多分一緒に笑ってたんじゃねぇか?
息をついて体を離して顔を見るとごめんなさいを繰り返しているようだが笑い声でちゃんと言えてない。
俺もそんなもん気にするな謝んなくていいぜといいながら多分絶対ちゃんと言えてない自信があった。


黒崎の淹れてくれたコーヒーをすすりながらまだ口元がニヤついてくるのを堪える。
黒崎の様子が変だったのはそのせいか。確かにハズいだろうけどよ。
しかし音までかわいいたぁさすが黒崎の下の口。
実体のない音にまで黒崎らしさがあるような気がした。
そう言ったらまた恥ずかしがるだろうから言わないけど
そんなお前の「存在」全部が好きなんだからよ。

向かいでもじもじしながら青いシャツ一枚の姿でふうふうとコーヒーをすする実体が
いつもよりいままでよりリアルに感じられて愛おしい。
人形じゃなくて。
お前は生きてて。
動いてるんだな。


さて、そしたら今夜はもっと啼いて聞かせてもらおうか。
リアルな声を。





※『あまぎごえ』は石/川/さ/ゆ/りさんの『天/城/越/え』のことです。グリ先生は演歌にはあまりくわしくないようです。







      ↑これも生理現象かしらん。


※ネタ元→テレビ東京『ピ/ラ/メ/キ/ー/ノ』、『O/na/ra/は/ず/か/し/く/な/い/よ』 歌 オ/ン/ナ/ラ/ブ/リ/ー



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