246代目トップ。 SSというか、こういう会話してたらいいなぁみたいなの 興味ございましたら絵の下にありますのでどうぞ。 |
紅葉狩りに行ったのに
いきなり途中から柿狩りだと主張し
あまつさえその柿の木から落ちて足をくじいた上に
胸も打ったらしくおぶさると痛いといいくさる馬鹿を肩にのっけて帰路を急ぐ。
あたりはすでに柿色の時刻。
柿食いそこなった柿色頭のガキは
最初誰かに見られたらハズイだの紅葉が見たかっただの(誰のせいで見れなくなったんだか)
ぶつぶつ文句を垂れていたが今や俺の頭上で歌までとびだすゴキゲンぶり。
さして重いとは思わないが重心をとるのに気を遣っている人の気も知らないでいい気なもんだ。
よく分からない歌詞は現世の歌だろう。上手いのか下手なのかもわからねぇ。
「…て歌だ?」
巧拙のほどはよくわからないがそれでも規則ただしく律動を奏でる声色が止まる。
「何?」
「だから、それ、なんて歌だよ」
「知らねぇよ」
とたんにさっきまでのゴキゲンがナリを潜めたように思えた。
頭上にあるので顔は見れないがそんな気がした。
マズイことを言った覚えはないんだが。
しばし沈黙のままひょろ長い影をさらに伸ばして進む。
さっきまで重さを感じなかった肩が今はズシリと感じる。
「おふくろが歌ってた」
誰彼の混沌をつきやぶるようにブッキラな声が降ってきた。
返事が見つからないまま黙っていると
「だから何て歌かは知らねぇ
いつも稽古の帰りに歌ってた」
「…そうか」
「…恋次に訊かれて自分が歌ってたの初めて気がついた」
「悪かったな」
「いや、いいよ。覚えてた自分にびっくりした」
「忘れねーんだそういうことは」
「…」
「いや、忘れちゃいけねーんだよ一護」
それはきっと魂の記憶。
黙っている頭上に声をかける。
「続けろよ」
「え?」
「俺にも覚えさせろ」
「恋次が歌覚えれんのかよ」
「馬鹿にすんな。俺だって現世の歌のひとつやふたつ」
クスクスと笑う声はまたゴキゲンを取り戻したようだ。
えへんと咳払いをして
「ありがたく聴きやがれ」。
遠くの山の影がわずかに柿色を纏うそのあわいに細い金の鎖のような歌が滑り込む。
さっきまで肩にズシリと来ていたそれは心地よい重さになって
このままずっとあの山までも歩いて行けそうな気がした。
バックボタンでお戻りください。