『聖女を思わせるよ』
一護が走り去るのを背後に感じながら、
ドルドーニは先程と同じ言葉を胸の中で呟いた。
先程は、幾分かの揶揄を込めて。
そして、今は―
「さて、どうやら間に合ったようだ」
一護が走り去った方向とは逆側から、感じ慣れた
同胞の霊圧が近づいて来る。
しかし、それが己を助けに来た訳ではない事は
判っていた。
一護を追うために。
己に止めを刺す為に。
負けたあとどう処分されようと、すでに興味は
なかった。 敗北の事実は覆らない。
だがまだやれる事はあると、ドルドーニは
静かに息を吐いた。
あの、強く輝かしい魂の為に。
近づいて来る葬討部隊に、ドルドーニは
決意を込めた眼差しを向けた。
「言うじゃないかね、小僧共」
それが、最後の戦いの合図となった。
躯に受けた傷は浅くない。
『暴風男爵』も、もう出せない。
それでも、ドルドーニの中に怯む気持ちは
どこにもなかった。
一秒でも長く、この場で戦えればそれでよかった。
容赦なく斬りかかって来る葬討部隊の刃を
受けながら、ドルドーニはただ一護の事を想っていた。
![]() ―ぼうや
先程まで、敵として対峙していた死神。
倒して己の力を示せれば、それでよかった
だけの存在。
だが実際に刃を交え、言葉を交わすうちに
芽生えた想いを何と名づければいいのか。
チョコラテの様に甘く幼い精神は、笑ってしまえば
済むだけのはずだった。
『守るため』
そう何のてらいも無くそう言い切った唇。
戦いに身を置きながら、少しも曇らぬかのような
瞳を見た時。
全てをぶつけたいと、その言葉が瞳が本物か
確かめたいと、失くしたはずの何かが叫んでいた。
―感謝する
自身の消耗を省みる事無く、虚化まで見せてくれた。
あの時、全力を見たいと言いながら、試すつもりで
虚化を促した。
敵の言葉をどう取るか。
おそらく拒否するだろうとのドルドーニの考えを、
一護は受け入れて見せた。
人であり死神である身からすれば、虚化は禁忌であり
穢れであるはずである。
しかし虚化してなお、一護は一護としてそこに立っていた。
知らず、ドルドーニの唇が笑みの形を取った。
―まるで、あの花のようではないかね
![]() 穢れを知らぬのではなく、知ってなお白く咲き誇るかの
ような魂。
できることならば、その手を取ってみたかった。
もう二度とあの会えぬ存在に。
届かぬと判りながら、ドルドーニは最後の言葉を
胸の内で送った。
―チョコラテは此処に置いて行け
ただ『守るため』では、済まされない戦いの為に。
生き延び、目的を果たすためには甘さは邪魔にしか
ならない。
冷酷に徹するには、優しすぎる心も殺さねばならない。
全ては、勝ち残る為に。
全ては、目的の為に。
振り下ろされた刃を躱しきれずに、ドルドーニの躯が床に
崩れ落ちた。
止めを刺す為に近づく刃を、しかしドルドーニはもはや
見向きもしなかった。
霞はじめた眼を、一護が去った通路にひたと向ける
だけだった。
その眼が、静かに閉じられる。
―鬼になるのだぼうや
―然もなくばぼうや
―然もなくば・・・
Esperos
Los restosdel santo・・・
(願わくば、聖女のままであらんことを・・・)
![]() ―終― |
![]() |
■ | 東雲さん、ありがとうございました。 最初、「リクお受けしますよ」とお申し出いただいて 贅沢な悩みを満喫していたんですが 考えに考えて 「普段やらないようなカプを」と考えて そうしてドル様とべりたんでお願いいたしました。 快く引き受けてくださった上に こんなかっこいいドル様を書いてくださって ほんとうにリクエストお願いしてよかったです。 (無謀カプなのでサクっと断られるかもしれないと思ってました) もう「ドン★パニーニ」なんで呼べないです~。 「ドル様」です~。 挿絵はあっさりめをと思ったのですが この←あつくるしい一枚はうざがられようとも描きたかった! マドンナリリー(白百合)と暑苦しいヾ(ーー )ドル様を 並べてみたかったんだーーーー! 28巻、29巻を再読しながら描いてたのですが SS拝読あとだと、いろいろなシーンが意味深いものに思えてきて また違う心の震えが・・・(´▽`) 東雲さん、ありがとうございました。 素敵SSのあとに駄文な添えがき(文責:海軍)すみませんでした。 |